勉強の精神的負担を軽くする

勉強は始めるまでが大変

 塾の授業で勉強するのはさほど辛くないのに、家で勉強する時はなぜかやる気が起きない・・・という声をよく聞きます。授業は決められた時間になったら強制的に始まってしまうので、やる気の有無に関係なく勉強が始まります。そして始まってしまえば、目の前の問題に集中するので、勉強そのものは意外に辛くないものです。
 そう考えると、勉強が辛いのは、実は勉強を始める直前なのではないでしょうか。宿題などがある時、「そろそろ勉強を始めないとなあ。でも、面倒くさいなあ」と憂鬱な気分になる、この瞬間が厄介なのです。
 では、このような勉強を始めるための精神的負担を軽くする方法はないのでしょうか。

「ナッジ理論」とは

 ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のリチャード・セイラー博士と、ハーバード大学のキャス・サンスティーン教授が、2008年に提唱した「ナッジ理論」というものがあります。ナッジ(nudge)は、“ひじで軽く突いて注意を促す”ことを意味し、ナッジ理論は「ささやかな働きかけによって、人々の行動を変えていく」という理論です。

 具体的な例としては、次のようなものがあります。

・コンビニの床に矢印の線を張っておくことで、自然にお客さんが1列に並ぶようになった。
・「ここは自転車捨て場です」の張り紙をすることで、放置自転車をなくすことに成功した。
・男性用トイレの小便器の中に1匹のハエがとまっている絵を描くことで、床を汚す人を激減させた。(人間は的があるとそこに狙いを定めてしまう)
・街のタバコの吸い殻入れを投票箱として、好きなサッカー選手を選ぶアンケートを実施し、タバコのポイ捨てを減らした。
・アメリカの学校で、食堂の利用者が取りやすい位置に健康によい食べ物を置くことで、生徒たちが無意識に健康によい食べ物を取るようになった。
・サッカーワールドカップの試合後に渋谷駅前がファンで大混雑した際、「皆さんは12番目の選手。日本代表のようなチームワークでゆっくり進んでください」という警官の声で混乱や事故などを防ぐことができた。


 いずれの例も、命令や罰則などによる強制力に頼らず、あくまで「ささやかな働きかけ」によって目的を達成することに成功しています。つまり、物事をスムーズに進めるための、ちょっとした工夫ということです。

勉強への応用

 では、勉強に応用できる工夫にはどんなものがあるでしょうか。

①机の上などを、常に整理整頓しておく。
 勉強しようと思った時、机が散らかっていると片付けから始めないといけなくなり、それでやる気が消えてしまうかもしれません。思い立った時にすぐ勉強できるようにしておきましょう。(あとでやる予定のテキスト類を広げておくのもいいかもしれません)
②やることリストを作っておく。
 その日にやる勉強の予定を箇条書きで書いておきます。こうすることで、それぞれの項目に要する時間が予測でき、短時間で終わりそうな勉強は隙間時間にやるなど、時間を有効利用できるようになります。
 また、リストの項目をわざと細かくし、終わったものからどんどん消していくことで、何度も達成感を味わえ、意欲の向上につながります。
③塾に来て勉強をする。
 家ではどうしても集中できないという人は、塾に来て勉強するといいでしょう。ゲームやテレビなどの誘惑もなく、必要な時にすぐに質問もできるので、勉強する環境としては最適だと思います。

 「ナッジ理論」は、「努力しなくても効果が出る上手い方法がある」という理論ではありません。勉強を続けるためには、明確な目標と継続的な努力が欠かせないことは確かなのです。ただ、ちょっとした工夫で勉強のハードルを少しでも低くすることができるのなら、それに越したことはありません。学習効果を上げるための「ささやかな働きかけ」を意識してみてはいかがでしょうか。